嗅覚は五感の中でも特に記憶や感情と深く結びつきやすく、私たちの心に強く刻む力を持っています。心地よさを楽しむだけでなく、自分らしさを演出する手段にもなります。 本コラムでは、香りが記憶に残りやすい科学的な理由や香りと感情の関係、更に香りを使ったマーケティング例について解説いたします。 日々の生活を豊かにするだけでなく、ビジネスの場においても特別な空間を作り上げるために香りを活用してみませんか。
ふとした香りで忘れていた記憶がよみがえった経験はありませんか。香りは、特定の出来事や感情と結びつき、意図せず記憶を呼び覚ますきっかけになることがあります。
香りによって呼び起こされる記憶は、その時の感情や感覚を伴いやすい点が特徴です。例えばある香りを嗅いだ時、私たちは単に「誰とどこで何をしたか」という情報だけでなく、その時に感じていた喜びや安心感、その場の空気感といった感覚的な情報まで一体となって思い出すことがあります。
香りは、体験したときの感情と結びついて記憶されやすいという特徴があります。
楽しい旅行、家族で囲んだ食卓、安心できる部屋のように心地よい経験と結びついた香りは、再び嗅いだ時に当時の温かい感情を呼び覚ますきっかけになることがあります。
一方で、嫌な体験と結びついた香りはネガティブな気持ちを引き出してしまうこともあります。「良い香り」とは一人ひとりの経験によって育まれる個人的な評価だと言えるかもしれません。
先ほど解説したような、香りによって過去の記憶が呼び起こされる現象はプルースト効果と呼ばれます。この名前は、フランスの作家マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』に由来しています。作中には主人公がマドレーヌを紅茶に浸したときの香りから幼少期の記憶を思い出すシーンがあります。
・ すれ違った人がつけていた香水がかつての恋人の香りに重なり、当時の出来事がよみがえる
・ お線香の香りから、亡くなった祖父母の家で過ごした時間が思い起こされる
・ 実家の洗濯用洗剤の匂いで、子どもの頃の何気ない情景が思い浮かぶ
・ レストランの料理の匂いで、家族で食卓を囲んだときの温かい記憶がよみがえる
・ 森の湿った土や木々の香りで、キャンプをしたときの記憶がふっと浮かぶ
・ 焼きたてのパンや淹れたてのコーヒーの香りで、よく利用していたカフェでの会話を思い出す
印象的なのは、家族との何気ない会話や通学路の風景など「何でもない日常」の記憶が呼び起こされやすい点です。日常の匂いが静かに心に積み重なっているからでしょう。
香りが記憶に刻まれやすいのは、嗅覚が脳に伝達される際に他の感覚とは異なる経路を辿っているためです。香りと記憶の関係について詳しく見ていきましょう。
視覚や聴覚の情報は一度「視床」という中継点を通ってから、思考を司る領域に運ばれます。これに対して嗅覚の情報は感情や記憶を扱う「大脳辺縁系」にまっすぐ届きます。ここには感情反応に関わる扁桃体や、記憶を司る海馬が含まれます。香りを嗅いだ時に懐かしさや安心感といった感情的な記憶がよみがえりやすいのはこのためです。
人の長い歴史の中で、嗅覚は危険察知や食べ物の選別に役立っており、その名残が今も私たちの脳に残っています。結果として香りに結びついた記憶は長く保たれ、時間がたってもふとした時によみがえりやすいのです。
香りの効果はブランドの印象づくりにも役立ちます。お店やホテルの体験設計に香りを取り入れることで、より思い出に残りやすい空間を作ることができるでしょう。
特定の香りを「そのブランドらしさ」の象徴として使う手法は、ブランドセントマーケティングとも呼ばれます。
ホテル業界ではこの手法を用いてブランドイメージを確立している例がいくつか見られます。
例えば、ウェスティンホテルでは「ホワイトティー」を基調に、バニラなどを合わせた香りで癒しの空間を演出しています。
この香りは全ウェスティンホテルで統一されており、ホテルの利用者が施設内に足を踏み入れこの香りを感じた時に、日常から離れた特別な場所に来たと認識することができます。香りを統一するという工夫が一貫したブランド体験や癒しにつながっているのです。
また、シャングリラホテルでは白檀・ムスク・柑橘系などを合わせ、スパイシーさも足した高級感溢れる香りを採用しています。この香りも全シャングリラホテルで統一されており、顧客は香りからブランドの物語を感じ取り、特別な滞在への期待感を高めるのです。
心地よい香りが漂う空間はリラックスしやすく、顧客の滞在時間が延びる傾向があります。滞在が快適であるほど、顧客はブランドや商品に対してポジティブな印象を抱きやすくなります。香りは目に見えませんが体験の質を底上げする要素の一つです。結果的に心地よい記憶が積み重なれば、再訪のきっかけにつながったりブランドへの愛着が育まれやすくなったりするでしょう。
商品に香りを付けることで顧客の購買意欲が高める効果も期待できます。例えば化粧品の場合、心地よい香りがもたらす高揚感やリラックス効果は「化粧をして美しくなる」というポジティブな体験と結びついて記憶されやすくなります。再びその香りに触れたとき、プルースト効果によって当時の幸福な感情が呼び覚まされ、購買意欲を高めることがあります。
香りは単なる嗜好品ではなく、記憶や感情、そして人の行動にまでそっと働きかける力を持っています。これまで見てきたように、嗅覚と脳には特別なつながりがあるため、香りが私たちの記憶に残りやすくなっているのです。
この力を施設や店舗における空間演出にも活かしてみてください。まずは「どのような印象を与えたいか」「どんな気持ちを体験してほしいか」といった目的を明確にし、その場面に適した香りを選んでみましょう。
例えば、スパの温泉やプールにも使用できる水用のフレグランス、ウォーターパフュームを取り入れるのも素敵です。
KIKAOのウォーターフレグランスは、湯船やプールに数滴加えるだけでまるで高級スパにいるかのような心地よい香りが広がり、日常の空間を手軽に癒しの空間へと変えることができます。
KIKAOのウォーターフレグランスについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下のページもご覧ください。
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香りはその場所の印象を決定づけるだけでなく、訪れた人が未来にふと思い出す、心地よい記憶のひとつとなるかもしれません。その場所ならではの香りが利用者の印象に残ることで、ブランドへの愛着を育み、特別な体験をより忘れがたいものにしてくれるはずです。
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